2010年12月31日金曜日

2010年の写真展・写真集

2010年に展覧会をしたり、写真集を出版した写真家で、個人的に気になった人をピックアップしてみました。



■アーノルド・オダーマット(Arnold Odermatt)
・展覧会「Arnold Odermatt Exhibiton」(Swiss Institute Contemporary Art)
・関連サイト:http://www.swissinstitute.net/exhibitions/exhibition.php?Exhibition=100

オダーマットが、スイスの警察官時代に撮影した自動車事故の写真展。事故の決定的瞬間ではないが、破損した車や、時間が静止したかのような現場写真が印象深い。1925年に生まれたオダーマットは、もともとパン屋修行をしていたが、23歳になった1948年から1990年に退職するまでの42年間、スイス警察に勤務。退職後、当時の写真をまとめた写真集『Karambolage』で一躍極光を浴びた。その後、勤務中の写真をまとめた写真集『On Duty』、そして非番中の『Off Duty』を、シュタイドルから発売。スイス警察のカメラマンでしか撮れない貴重な写真の一部を見ることができる。





■アダム・シュライバー(Adam Schreiber)
・展覧会「Anachronic」(Sasha Wolf Gallery, NYC)
・関連サイト:http://www.sashawolf.com/Exhibition_Adam.html
・作家サイト:http://adamschreiber.net/

シュライバーは、過去の歴史的遺物が置かれている現代の状況を記録している。1826年にニエプスが窓越しに撮影した世界初の写真が、今は博物館のガラス窓に囲まれ、鎮座している様子は、過去と現代が向き合っているようで不思議。リンドン・ベインズ・ジョンソン(大統領)ライブラリーにある、ホワイトハウスのスイッチボード。一体このスイッチは何の起動に使われていたのだろうか。時間から切り離されたオブジェがこれまた不思議。



■アネット・ケルム(Annette Kelm)
・展覧会「Today」(Andrew Kreps Gallery, NYC)
・関連サイト: http://www.andrewkreps.com/exhibition_portfolio.html?eid=168

写真が生み出す視覚効果をめぐって、様々な実験的作品を集めた写真展。例えば、背景である地の部分と、図の部分が奇妙に合体している作品。だまし絵的な感じ。何も不思議なことはないのに、ねじれてこんがらがってくるよう。



■アベラルド・モレル(Abelardo Morell)
・展覧会「Groundwork」(Bonni Benrubi Gallery, NYC)
・関連サイト: http://www.bonnibenrubi.com/exhibition_107.html
・作家サイト: http://www.abelardomorell.net/

アベラルド・モレルは、部屋をカメラオブスキュラ化し、外の風景と屋内のインテリアを多重露光のように撮影する事で知られる。今回の展示では、テントの上から光を通し、路上に映した風景を撮影。モレルのサイトで、近作を見ることができる。モレルのカメラオブスキュアシリーズは写真集として出版されている。その名も『カメラオブスキュラ』。2004年発行。





■アンドレアス・グルスキー(Andreas Gursky)
・写真集『Andreas Gursky』(Rizzoli)
・関連サイト: http://www.rizzoliusa.com/book.php?isbn=9780847836437

2010年にガゴシアンギャラリーで行われた個展の写真を収録。新作の「Ocean」シリーズでは、自らが撮影した写真ではなく、衛星が撮影した写真を素材として、人の目と機械の目の間にある分断を繋ごうと試みている。





■ウィリアム・E・ジョーンズ(William E. Jones)
・関連サイト: http://www.andrewroth.com/killed.html
・写真集『Killed. Rejected Images of the Farm Security Administration.』(PPP Editions)

1930年代、アメリカの農村の現状を記録し、復興に役立てようとしたFSAプロジェクト。そのディレクターである経済学者のロ イ・ストライカーは、多くの著名な写真家が撮影した写真の中から、FSAプロジェクトにふさわしいものだけを選択・トリミングし、採用した。この写真集は、そのロイ・ストライカーの選択から漏れて、除外された写真を集めて、裏に隠れてしまった歴史に光を当てるものである。例えば同性愛の様子を記録した写真などは、歴史から外されてしまった。



■ウタ・バース(Uta Barth)
・展覧会「...to walk without destination and to see only to see.」(Tanya Bonakdar Gallery, NYC)
・関連サイト: http://www.tanyabonakdargallery.com/press_release.php?exhibit_id=239

「目的も持たずに歩き、見る、ただ見るためだけに」という展覧会タイトルのように、ウタ・バースは屋外にぶらりと出かけ、見るという行為を含んだかのような写真作品を制作。自分の影が写りこんだ2~3枚組の写真で構成されている。





■エリック・タブチ(Eric Tabuchi)
・写真集『Hyper Trophy』(Les Presses du Reel)
・関連サイト: http://www.erictabuchi.fr/files/dossier-presses.pdf
・作家サイト: http://www.erictabuchi.fr/

日本人とスウェーデン人の血をひくエリック・タブチによる新しいタイポロジーの写真集。28枚の写真をおさめた12冊の写真集がボックスセットになっている。ここ6年間、パリから半径250kmの間で撮影した、開発区域の市街地や、道路、街の郊外やビルなど。対象は平凡なものばかりだが、似たようなものが淡々と記録され、逆にそれが記録の価値を高めているようだ。写真集の背表紙も凝っていて可愛い。また、道路を走るトラックの背面に記されたアルファベットをAからコレクションした「アルファベットトラック」シリーズは、タイポロジーのようでもあるが、定点観測ではない、ロードムービー的出会い写真のようでもあり面白い。



■オサム・ジェームス・中川(Osamu James Nakagawa)
・展覧会「BANTA:沁みついた記憶」(銀座ニコンサロン, 東京)
・関連サイト: http://www.nikon-image.com/activity/salon/exhibition/2010/01_ginza.htm
・作家サイト: http://osamujamesnakagawa.com/

太平洋戦争の時に、人々が飛び降りた沖縄の崖を撮影。大量に撮影した画像をデジタル合成によって、数十メートルの壮大な断崖へと仕上げた。ハイパーリアルな写真は、崖に染み付いた惨劇の歴史の記憶を、克明に映し出しているようである。



■ガッツ・ディアガートゥン(Gotz Diergarten)
・写真集『Photographs』(Hatje Cantz)
・関連サイト: http://www.youtube.com/watch?v=1jpeHA6eOlE
・作家サイト: http://www.diergarten.com/

フランスのビーチにある小屋のタイポロジー写真で知られるディアガートゥンの写真集。1972年生まれのディアガートゥンは、デュッセル ドルフでベッヒャーに学んだ。厳密なタイポロジーでありながら、色を導入することで、デザイン的要素もあり、ベッヒャー派の進化形ともいえる。





■クラウディア・ロッゲ(Claudia Rogge)
・写真集『A Retrospective』(Hatje Cantz)
・関連サイト: http://www.hatjecantz.de/controller.php?cmd=detail&titzif=00002574&lang=en
・作家サイト: http://www.claudia-rogge.de/

多数の人物イメージを組み合わせ、一つのイメージに仕上げるロッゲの写真は、個人と大衆社会との関係を示しているようでもある。 蠢いているのを見ると、ちょっと気持ち悪くなる。





■クリス・ヴィリーン(Chris Verene)
・展覧会「Family」(Postmasters Gallery, NYC)
・関連サイト: http://www.postmastersart.com/calendar/verene10_pr.pdf
・作家サイト: http://www.chrisverene.com/

過去26年間に撮影されたビリーンの写真から40枚を展示。イリノイ州の田舎に暮らす写真家の家族や親族のドキュメンタリー。展覧会と同名の写真集を、2010年に発行。このシリーズにはいとこのキャンディの離婚についての写真が多く含まれているが、10年前、彼女は、ヴィリーンの最初の写真集の表紙に、花嫁として登場している。夫婦ともども、働いていたイリノイ州の工場をリストラされている。星条旗をバックにした結婚式の家族写真が2000年頃、その後2001年に9.11がおこり、2004年にオバマさんがイリノイ州で名演説を残し、いとこ夫妻は工場をリストラされ、2009年にオバマさんが大統領になり、その間に夫婦は離婚。イリノイ州の田舎から見るアメリカの歴史。





■グレゴリー・クリュードソン(Gregory Crewdson)
・展覧会「Sanctuary」(Gagosian Gallery Madison Avenue, NYC)
・関連サイト: http://www.gagosian.com/exhibitions/2010-09-23_gregory-crewdson/

クリュードソンの新作は、イタリア・ローマの映画撮影所チネチッタを撮影したモノクロ写真。まるで映画のような美術セットを自ら作りあげ、アメリカで撮 影していたクリュードソン。今作では、初めて海外で、そしてフェリーニやロッセリーニが本当に使っていた映画のロケ地を撮影することになった。クリュードソンは、展覧会と同名の写真集を、2010年に発行。ガゴシアンギャラリーのサイトで、動画作品も見ることができる。シネチッタのゲートをこえてすぐの駐車場だろうか。煙と炎、見とれているといつの間にか雲散霧消、幻のようだ。





■サム・テイラー・ウッド(Sam Taylor-Wood)
・展覧会「Ghosts」(Brooklyn Museum, NYC)
・関連サイト: http://www.brooklynmuseum.org/exhibitions/sam_taylor_wood/

サム・テイラー・ウッドは、エミリー・ブロンテの小説『嵐が丘』の舞台となったイギリスのヨークシャーの荒野に別荘を建て、愛の復讐劇の果てに荒野をさまよう亡霊を撮ろうとしたようだ。そう思うと、ただの荒野が何かドラマティックに見えてくる。今流行のパワースポットに近いものがあるのかもしれない。ヨークシャーの荒野。どちらかというと、神話の中に出てくる風景に近いのでは。



■サラ・ピッカリング(Sarah Pickering)
・写真集『Explosions, Fires, and Public Order』(Aperture)
・関連サイト: http://www.aperture.org/books/books-new/explosions-fires-public-order.html
・作家サイト: http://www.sarahpickering.co.uk

ピッカリングのサイトで、今作に収録された4つのシリーズを見ることができる。都市環境の不安をシュミレートするための設備を撮影した「Public Order」。英軍による爆発演習「Explosion」。防火大学でレジデンスした際に撮影されたトレーニングセンターの「Fire」。防火大学でレジデンスした際に撮影されたトレーニングセンターの「Incident(事故・ハプニング)」。いずれもシュミレーションもので、実際の出来事ではないが、不安に対応するためのそれらの演習が、不安や災厄そのもののように見えてくるから面白い。





■ジェイミー・ダイアモンド(Jamie Diamond)
・展覧会「Portrait Histories」(Galeria Ramis Barquet, NYC)
・作家サイト: http://www.jamiegdiamond.com/

ダイアモンドは、通りすがりの他人同士に、写真館で撮るような家族写真を演じてもらい、その様子を撮影するプロジェクトを実施。一般的な肖像写真が作り上げてしまう仮想にしかすぎない現実をあぶり出すような作品。サイトで写真を見る事ができる。 いかにも幸せそうな家族が実は赤の他人というのは、嘘のようでいて、本当のことだから、何だか不思議な気持ちになる。これを一度見てしまうと、普通の家族写真も、ただ家族らしさみたいなものを演じているにしかすぎないのではと思えてきてしまう。



■ジェームス・ケースベア(James Casebere)
・展覧会「House」(Sean Kelly Gallery, NYC)
・関連サイト: http://www.skny.com/exhibitions/2010-10-29_james-casebere/works/#
・作家サイト: http://jamescasebere.com

スタジオで建築のモデルを作って撮影するジェームス・ケースベア。今回の作品ではNYのダッチェス郡で偶然出会った住宅街をモデルに制作。サブ プライムローン問題で話題になったアメリカの住宅市場。作品の中の美しい住宅とライフスタイルは、はかないアメリカンドリームのようでもある。





■ジェームス・フランク・トリブル & トレイシー・マンセイドー・トリブル(James Frank Tribble & Tracey Mancenido Tribble)
・展覧会「Hurry Up and Wait」(Sasha Wolf Gallery, NYC)
・関連サイト: http://www.sashawolf.com/Exhibition_Tribble_Mancenido.html
・作家サイト: http://www.tribblemancenido.com

トリブル夫妻は、トラックドライバーの学校に通い、プロのライセンスを取得し、大型トレーラーで高速道路に繰り出した。アメリカの経済を支えるトラックドライバーの文化に触れ、その環境を撮影する旅は、約一年間に渡り、約10万マイルを走行したという。二人のサイトで、トラックドライバーシリーズを見る事ができる。暗闇に浮かぶメーター、給油所、ドライバーズストア。どれもが美しい写真だが、厳しい業界の中で働く人々の悲しみが凝縮しているようでもある。



■ジェシカ・バックハウス(Jessica Backhaus)
・展覧会「I Wanted to See the World」(Laurence Miller Gallery, NYC)
・関連サイト: http://www.laurencemillergallery.com/backhaus_world.html
・作家サイト: http://www.jessicabackhaus.net/

ベルリンを拠点とするジェシカ・バックハウス(39)のアメリカにおける初個展。バックハウスの最新作「I Wanted to See the World」は、ベニスで撮られた40枚の写真によって構成。水面に描き出された、色彩感覚あふれる抽象画を、感覚的に切り撮った写真。バックハウスの写真集は、展覧会にあわせて出版される。





■ジム・ノートン(Jim Naughten)
・写真集『Re-enactors』(Hotshoe Books)
・展覧会「RE-ENACTORS」(KLOMPCHING GALLERY, NYC)
・関連サイト: http://www.klompching.com/kcg/pastfront.htm
・作家サイト: http://www.jimnaughten.com/

ジム・ノートンは、毎年夏、イギリスのケンティッシュフィールドで開かれる戦争ショーに集まる人々や武器を、白い背景でカタログのように撮影している。 抑制され、統一された雰囲気からは時代性がそぎ落とされ、世界大戦時の軍服を着ている人が、昔の人なのか今の人なのか、よく分からなくなってくる。軍服を着た老若男女だけでなく、戦車や、戦闘シーンまで。





■ジュリアン・スオーツ(Julianne Swartz)
・展覧会「Close Portfolio」(Mixed Greens Gallery, NYC)
・関連サイト: http://mixedgreens.com/exhibition_detail.php?id=9
・作家サイト: http://www.julianneswartz.com

ジュリアン・スオーツの新作は、指先の水滴に自分の身の回りの風景や家族を映し込んだシリーズ。水滴という鏡に映された世界は、どこか歪んでいて、そして一瞬でなくなってしまいそうでちょっと不安気でもある。



■ジュリアン・ファウルハーバー(Julian Faulhaber)
・展覧会「Lowdensitypolyethylene」(Hasted Hunt Kraeutler, NYC)
・関連サイト: http://hastedkraeutler.com/photos.php?a=julian_faulhaber&i=58094
・作家サイト: http://www.julian-faulhaber.com/

ファウルハーバーの駐車場や、スーパーマーケットの写真は、どこか抽象的で非現実的な印象。しかし、これはミニチュアなどではなく、全て現実の写真。現実から現実らしさを失わせる写真が得意なのか、それとももともと現実なんてものは、どこか非現実的なものということなのか。果たして。同じドイツの写真家で、紙で作った模型をまるで現実のように見せるトーマス・デマンドにも近い印象。



■ジュリア・ファラートン・バーテン(Julia Fullerton-Batten)
・展覧会「In Between」(The Randall Scott Gallery, NYC)
・関連サイト: http://www.randallscottprojects.com/julia_fullertonbatten.html
・作家サイト: http://www.juliafullerton-batten.com/

少女から大人になる女性の不安定な感情を、おとぎ話のように表現するバーテン。今回は3つのシリーズを展示。一つは巨大化した少女が、ミニチュアの街を闊歩する「Teenage Stories」。二つ目は増殖した少女が動き回り、集団の気持ち悪さを感じさせる、悪夢のようなシリーズ「School Play」。三つ目は、宙に浮かぶ少女のシリーズ「In Between」。天使のようにふわふわ浮いているようにも見えるし、居場所がなくて宙づりになっているようにも感じられる。



■ジョエル・スタンフェルド(Joel Sternfeld)
・写真集『iDubai』(Steidl)
・関連サイト: http://www.steidlville.com/books/965-iDubai.html

ジョエル・スタンフェルドが、iPhoneのカメラで、ドバイのショッピングセンターを記録した写真集。20世紀のパリが写真によって記録されたように、21世紀の今、高度に発達した資本主義社会の先端を、時代を代表するメディアで記録。





■ジョシュ・アザレラ(Josh Azzarella)
・展覧会「Josh Azzarella」(DCKT Contemporary, NYC)
・関連サイト: http://www.dcktcontemporary.com/exhibition/view/877
・作家サイト: http://joshazzarella.com/

歴史写真や、映画など、人々の記憶に残っている場面を加工することで、共有されているイメージを揺るがすアザレラの写真展。AP通信から世界中に配信された天安門事件のタンクマン、ニック・ウットのナパーム弾の誤爆を受けて逃げ惑う少女、アブグレイブ刑務所での虐待などの写真が修正されている。記憶の改ざんへの警告ともとれるし、共有しているイメージの不確かさをついているようでもある。元ネタを知ればしるほど、変な印象を受ける。アーカイブをモチーフとした作品として面白い。



■タリン・シモン(Taryn Simon)
・写真集『Contraband』(Steidl)
・関連サイト: http://www.steidlville.com/books/1134-Contraband.html
・作家サイト: http://www.tarynsimon.com

タリン・シモンは2009年11月16日から20日まで、NYのジョン・F・ケネディ国際空港で、海外から持ち込まれた1000以上の密輸品を、コレクションカタログのように撮影。麻薬から偽のブランド品まで。 シモンのサイトで、「Contraband」(密輸品)シリーズを見る事ができる。カタログのように並べたバージョンとディテール版がある。違法と判断されるには、色々な理由がある。その理由は国家の秩序を守るためにあるわけなのだが、これらの押収品から、その守ろうとする秩序が逆に見えてくるようで面白い。





■デヴィッド・メイゼル(David Maisel)
・展覧会「Library of Dust」(UCR/California Museum of Photography)
・展覧会「History’s Shadow」(UCR/California Museum of Photography)
・関連サイト: http://cmp.ucr.edu/exhibitions/historys-shadow/
・作家サイト: http://davidmaisel.com/

「Library of Dust」は、1970年代に閉鎖された1883年設立のオレゴン州の精神病院。そこに残された骨壺缶を撮影したデヴィッド・メイゼルの写真展。腐食して、不思議な模様を描く缶の一つ一つが、まるで人それぞれの個性のようで、美しい。メイゼルのサイトで、このシリーズを見ることができる。非常に抽象的で美しい模様だが、その中におさめられているのが人骨だと思うと、非常に具体的。そのギャップが不思議な印象を与える。一つ一つ模様が違い、とてもユニークなのは、まるでそこにおさめられている人が、それぞれ個性的であったことを示しているよう。
「History’s Shadow」は、昔からある古典的な西洋、もしくは東洋の彫像をX線で撮影したシリーズ。透けて見える中身を通じて、過去と通じ合えるかのような不思議な写真。メイゼルのサイトで、シリーズの写真を見ることができる。仏像や彫像にこめられた魂を透かし見ているようで、ちょっと怖い。人型も怖いが、動物の彫像の骨格の生々しさがまた怖い。





■デニス・ダルザック(Denis Darzacq)
・展覧会「Hyper」(Laurence Miller Gallery, NYC)
・関連サイト: http://www.laurencemillergallery.com/darzacq_hyper.html
・作家サイト: http://www.denis-darzacq.com/

パリとルーアンの新しく派手なスーパーマーケットの中で、重力から解き放たれたかのように自由に飛び回る若者たちは、地球規模の大量消費の中にあって、生き生きと自由な精神を持っているように見える。



■ナダフ・カンダー(Nadav Kander)
・写真集『Yangtze, the Long River』(Hatje Cantz)
・関連サイト: http://www.hatjecantz.de/controller.php?cmd=detail&titzif=00002683&lang=en
・作家サイト: http://www.nadavkander.com

イスラエル生まれのナダフ・カンダーが中国の揚子江を撮影した写真集。川の雄大さと、その川辺で急激に発展していく中国社会、それらに圧倒されるように細々と生活する人々が描かれている。YouTubeで作品を見られる。





■ニコライ・ホワルト(Nicolai Howalt)
・写真集『Dying Birds』(Hassla)
・写真集『Tine SA Ndergaard, Nicolai Howalt: How to Hunt』(Hatje Cantz)
・関連サイト: http://www.hasslabooks.com/nhts10_001.html
・関連サイト: http://www.hatjecantz.de/controller.php?cmd=detail&titzif=00002722
・作家サイト: http://www.nicolaihowalt.com/

『Dying Birds』は、狩りで撃たれた鳥が、地上に落下する様子をまとめた写真集。飛んでいるようにも、舞っているようにも見えるが、実は命を失って落下しているというのが印象的。作家のサイトでこのシリーズを見る事ができる。
『How to Hunt』は、デンマークのアーティスト、Tine SA Ndergaard とニコライ・ホワルトによる狩りをテーマにした写真集。昔から行われてきた狩りという行為を見つめ直すかのように、人間と風景を広い視点で捉えている。作家のサイトで、「how to hunt」シリーズを見る事ができる。ブリューゲルの描く風景画のようにも見える。激しい狩りの様子ではないので、ぱっと見、風景を楽しみながら散策している人々のようにも見える。





■ネリー・ブラウ(Nealy Blau)
・写真集『Elsewhere』(DECODE BOOKS)
・関連サイト: http://www.decodebooks.com/blau.html

ネリー・ブラウは、子供の頃から、自然史博物館によく通っていたという。組み立てられた不自然なジオラマの自然風景は、不気味だが、どこ超現実的で、神秘的でもある。ぱっと見、普通の自然風景に見えるのだが、よく見ていると、後ろの風景がどうも書き割りのような感じで違和感。自然なんだけど不自然。不自然なんだけど自然。



■ピーター・ファンク(Peter Funch)
・写真集『BABEL TALES』
・関連サイト: http://www.peterfunch.com/index.php?/ongoing/babel-tales/
・作家サイト: http://www.peterfunch.com

デンマーク生まれ、NY育ちのピーター・ファンク(b.1974)は、ニューヨークのストリートを、同じ箇所で複数回に渡り撮影。それを合成して、パノラマ写真に仕上げた。反復効果によって極端に強調された風景は奇妙だが、しかしその特徴をよく表現できている。



■ピーター・ユーゴー(Pieter Hugo)
・写真集『Nollywood』(Yossi Milo Gallery)
・関連サイト: http://www.yossimilo.com/exhibitions/2010_02-piet_hugo/
・作家サイト: http://www.pieterhugo.com

世界三大映画産業の一つ、ナイジェリアの「Nollywood(ノリウッド)」。主にアフリカ人のために、安価で大量生産されるこのビデオフィルムは、ナイジェリア人の等身大の自己表現でもある。そんなノリウッドの制作現場で撮影されたこのシリーズは、映画のスチール写真のようでありながら、ドキュメンタリーとフィクションの境界に存在する不思議なポートレートとなっている。白日のもとにさらされたスリラーのモンスターみたいで面白い。





■ピエール・ル・ホルス(Pierre Le Hors)
・写真集『Firework Studies』(Hassla)
・関連サイト: http://www.hasslabooks.com/plh10_001.html
・作家サイト: http://www.pierrelehors.com

2010年秋発行。320ページ、ソフトカバー、モノクロオフセット。作家のサイトで196ページのブックダミーを見られる。黒い夜空に炸裂する花火を写しただけの写真集だが、果てしなくめくっていると生き物のように躍動してくるのが面白い。



■フィリップ・トレダノ(Phillip Toledano)
・写真集『Days With My Father』(Chronicle Books)
・展覧会「A New Kind of Beauty」(Klompching Gallery, NYC)
・関連サイト: http://www.chroniclebooks.com/index/main,book-info/store,books/products_id,8678/
・関連サイト: http://www.dayswithmyfather.com/
・関連サイト: http://www.klompching.com/kcg/pastfront.htm
・作家サイト: http://www.mrtoledano.com

『Days With My Father』は、妻に先立たれ、アルツハイマーになり、年老いていく父親を撮影した写真集。ちょっとお茶目な写真と、父への思いを静かに綴った文章が面白い。
「A New Kind of Beauty」は、美容整形した人たちを、古典的な肖像形式で撮影したシリーズ。写真かは、誠実にその美しさを引き出そうと撮影したが、果たしてこれは美なのか、それとも新しい形の美の誕生と受け止めればいいのだろうか。サイトで写真を見られる。





■ヘンリー・ルートワイラー(Henry Leutwyler)
・写真集『Neverland Lost A Portrait of Michael Jackson』(Steidl)
・関連サイト: http://neverlandlost.com/
・関連サイト: http://www.steidlville.com/books/1054-Neverland-Lost-A-Portrait-of-Michael-Jackson.html
・作家サイト: http://www.henryleutwyler.com/

マイケル・ジャクソンが、ネバーランドに残した遺品を撮影した写真集。まるで王侯貴族の美術品展のカタログのように撮影された写真からは、偉大な故人の足跡が偲ばれる。「ネバーランド・ロスト」の特設サイト。大きな写真を見ることができる。偉大な王の形見たち。輝きだけを残して、王は静かに逝った。





■ポーラ・マッカトニー(Paula McCartney)
・展覧会「Bird Watching」(Klompching Gallery, NYC)
・関連サイト: http://www.klompching.com/kcg/pastfront.htm
・作家サイト: http://www.paulamccartney.com/

普通の野鳥写真に見えるが、実は模造の鳥を配置して撮影した、マッカトニーの「バードウォッチング」シリーズ。美しい自然のようでありながら人工的であるこの写真は、写真らしさや、フィクションとノンフィクションの境目といったものに揺らぎを生じさせる。一応、見事な野鳥写真。





■洪浩(ホンハオ)(Hong Hao)
・展覧会「Things」 (ベイスギャラリー, 東京)
・関連サイト: http://www.basegallery.com/exhibition/exhibit_hong10.html

日常的に身の回りにあるものをカメラを使わずにスキャンして、コンピューターで画像の集積を作った写真。その圧倒的な集積を見せられると、今自分たち現代人がいかに多くの物に囲まれて生きているかがよく分かる。



■マーガック・ウォルター(Margeaux Walter)
・展覧会「Crowded」(Winston Wachter Fine Art, NYC)
・関連サイト: http://www.winstonwachter.com/artist_page_seattle.php?folder=Walter_Margeaux
・作家サイト: http://www.margeauxwalter.com/

卒業式、ボールゲーム、コンサートなどの群衆一人一人を自ら演じたシリーズ。個性的でありながら、群衆に溶け込むことで匿名的かつ無個性な風景の一部になる人間の面白さ。ウォルターのサイトで作品を見ることができる。



■マーティン・ショラー(Martin Schoeller)
・展覧会「Female Bodybuilders」(Hasted Hunt Kraeutler, NYC)
・関連サイト: http://hastedkraeutler.com/photos.php?a=martin_schoeller&i=58106
・作家サイト: http://www.martinschoeller.com/

本日より。女性のボディビルダーの肖像写真シリーズ。まるで嘘のように作り上げられた肉体。写真のデジタル加工ができる今、この肉体が、本物なのに、まるで操作されたかのように不自然に見えてくるから不思議。





■マイケル・ウォルフ(Michael Wolf)
・展覧会「iseeyou」(Bruce Silverstein, NYC)
・関連サイト: http://www.brucesilverstein.com/galleries.php?gid=571
・作家サイト: http://www.photomichaelwolf.com/

グーグルのストリートビューの画像を拡大したり、都市の一部を極端にクローズアップすることで、写されている人も意識しないようなプライベート な瞬間をえぐり出すマイケル・ウォルフ。今回は、ストリートビューシリーズや、東京の通勤電車の窓越しに撮影したシリーズなど4つを発表。ウォルフのサイトで、「Tokyo Compression」シリーズを見る事ができる。確かに東京の通勤電車にのると、こんな感じでつぶされる。





■マティアス・シャラー(Matthias Schaller)
・展覧会「Elfering - 1642」(Danziger Projects, NYC)
・関連サイト: http://www.danzigerprojects.com/exhibitions/2010_4_matthias-schaller/
・作家サイト: http://www.matthiasschaller.com/

ドイツ人コレクターのゲルト・エルファリングが、自身の写真コレクションを、クリスティーズのオークションにかけたとき、その様子を撮影するよう依頼されたシリーズ「Elfering - 1642」。オークションは盛況で、7億円の売り上げだったという。7億円の写真を写した写真は幾らになるんだろう?



■マルティン・リープシャー(Martin Liebscher)
・写真集『Imprint』(Hatje Cantz)
・作家サイト: http://www.m-liebscher.de

自己増殖する悪夢のような風景。666部限定の特大写真集。リープシャーのサイトで増殖シリーズ「Family Photos」を見ることができる。見ていると気持ち悪くなる。





■モナ・クーン(Mona Kuhn)
・展覧会「Native」(Flowers, NYC)
・関連サイト: http://www.flowersgalleries.com/exhibitions/3882-native/
・作家サイト: http://www.monakuhn.com/

「Native」は、クーンが、生まれ育った母国・ブラジルに戻り、その自然風景や、そこに暮らす人々の自然なヌードを撮影したシリーズ。被写体との親密な関係がつむぐ物語というのは、クーンの過去の作品ともつながっている。





■ヨルマ・プラネン(Jorma Puranen)
・写真集『Icy Prospects』(Hatje Cantz)
・関連サイト: http://www.hatjecantz.de/controller.php?cmd=detail&titzif=00002472&lang=en

フィンランドの写真家、ヨルマ・プラネンは、黒く艶のあるアクリルに北極圏の風景を反射させたものを撮影している。ストレートに写された風景とは違って、不思議な効果のある写真。





■ライアン・マッギンリー(Ryan McGinley)
・展覧会「Life Adjustment Center」(Ratio 3, SF)
・写真集『Life Adjustment Center』(Dashwood Books)
・関連サイト: http://www.ratio3.org/exhibitions/2010/ryan-mcginley-life-adjustment-center
・関連サイト: http://www.dashwoodbooks.com/info.cfm?object_id=9145&inventory_id=9574
・作家サイト: http://ryanmcginley.com/

マッギンリーのNYのスタジオで撮影された動物とヌードのモノクロ写真シリーズと、今までのロードトリップシリーズを拡張したかのようなカラーのスナップシリーズ。ライティングなどがセットアップされたスタジオに、生きた動物をもちこむことで生まれる不思議な効果や、入念に準備しながらも発生するハプニングを上手くとらえたスナップなどが美しい。



■ラルフ・ペータース(Ralf Peters)
・写真集『Until Today』(Hatje Cantz)
・関連サイト: http://www.hatjecantz.de/controller.php?cmd=detail&titzif=00002608
・作家サイト: http://www.r-peters.de/

代表作のガソリンスタンドは、一見よく見慣れた写真だが、実は看板のロゴなどが外されていて、ガソリンスタンドという記号だけが純粋に抽出されたような不思議な写真。ドキュメンタリーと加工写真の境界線上の写真群。モンドリアンの抽象画のような空港シリーズも面白い。





■リチャード・バーンズ(Richard Barnes)
・展覧会「Animal Logic」(Foley Gallery, NYC)
・関連サイト: http://www.foleygallery.com/exhibitions/exhibitions_past_ins.php3?exhib=57
・作家サイト: http://www.richardbarnes.net

動物の剥製をまるで自然のように配置する博物館の様子を写真におさめることで、自然と人工の関係を再考する写真。同時に展示されるムクドリの大群が描く図形の複雑さは、自然でありながらどこか人工的な雰囲気を漂わせているかのようで、博物館の写真と対をなしているかのよう。





■リネト・アラー(Renate Aller)
・写真集『Oceanscapes: One View - Ten Years』(Radius Books)
・関連サイト: http://store.radiusbooks.org/product/renate-aller-oceanscapes-one-view-ten-years-limited-edition
・作家サイト: http://www.renatealler.com/

ドイツ生まれのリネト・アラーは、アメリカはロングアイランドのある一点から10年間に渡って、大西洋の海と空を撮り続けている。同じ海の写真だが、もちろんどれも同じものはない。スペシャルエディションはアクリルボックス入り。サイン入りの写真集と、オリジナルプリントをアクリルに貼付けた作品を、アクリルボックスにおさめた。非常に美しい。飾るのもよし、見るのもよし。 アラーのサイトで「Oceanscapes – One View」のシリーズを見ることができる。刻々と変化する光と水が作り出した写真ともいえる。





■ルービン・コックス(Reuben Cox)
・展覧会「Bagatelles」(Blackston, NYC)
・関連サイト: http://reubencox.us/ewtgthbnwtd-b.htm
・作家サイト: http://reubencox.us/

火薬が爆発した際に、一瞬立ちのぼる煙を撮影したシリーズ。すぐに形を変えては、消えてなくなる些細な事象だが、写真はそれに姿形を与え、見る人はそこに何かしらの思いを投影してしまう不思議さ。コックスのサイトでも紹介されている。こちらでのタイトルは、「Everybody Wants to go to Heaven but Nobody Wants to Die」(誰もが天国に行きたいが、でも死にたくはない)。シニカルなタイトルが面白い。



■レニエ・ゲリットソン(Reinier Gerritsen)
・写真集『Wall Street Stop』(Hatje Cantz)
・関連サイト: http://www.hatjecantz.de/controller.php?cmd=detail&titzif=00002720&lang=en
・作家サイト: http://www.reiniergerritsen.nl/

2009年の金融危機がピークにあったとき、ゲリツェンは、ウォール街とセントラル駅の間の地下鉄の中の人々を撮影。グローバルな金融システムの崩壊に さらされた人々の暗い様子を反映したかのような印象。ウォーカー・エヴァンスから、ブルース・デヴィッドソンに連なる地下鉄シリーズの最新形。ゲリツェンのサイトで、「Wall Street Stop」シリーズを見ることができる。ベアト・ストロイリやビル・ヴィオラの群衆に近い印象。スナップとは思えないほど、静謐で、一枚一枚にドラマが読み取れるかのよう。





■ローラダナ・ネメス(Loredana Nemes)
・写真集『Beyond』(Hatje Cantz)
・関連サイト: http://www.hatjecantz.de/controller.php?cmd=detail&titzif=00098123
・作家サイト: http://www.loredananemes.de

1972年ルーマニア生まれのネメスは、ベルリンのノイケルン区などにある、トルコやアラビアの男性専用のカフェに興味を惹かれて撮影。磨りガラスごしに撮影された肖像は、男性と女性を分け隔てる境界そのもののようにも見える。メネスがこの題材に興味を惹かれたのは、12歳の時に、半年間イランのシラーズで生活していた記憶によるという。彼女のサイトで、このシリーズの写真を見る事ができる。





■ローラ・レティンスキー(Laura Letinsky)
・写真集『After All』(Damiani)
・展覧会「After All」(Yancey Richardson Gallery, NYC)
・関連サイト: http://www.yanceyrichardson.com/artists/laura-letinsky/index.html

白い布やテーブル、果物の皿など、古典的な静物画のような写真を撮るレティンスキー。ただし、普通の静物画と違うのは、食後の散らかしたあとだということ。一見奇麗なようだが、静かに腐敗や退廃が進行しているようで面白い。どこか死を感じさせる写真。レティンスキーは、あるインタビューで「失われることなしに、ユートピアはありえない」と答えていた。その逆説的物言いが面白い。





■ロバート・キャパ(Robert Capa)
・展覧会「The Mexican Suitcase」(ICP, NYC)
・関連サイト: http://museum.icp.org/mexican_suitcase/

メキシカンスーツケースとは、ロバート・キャパ、ゲルダ・タロ、CHIM(デヴィッド・シーモア)が撮影したスペイン内戦のネガフィルムが入っていた3つのスーツケース。1939年、アメリカに旅立つ前に、キャパがパリの暗室に隠したネガフィルムは、大戦の混乱で行方不明になっていたと思われていたが、数奇な運命を経て、メキシコに渡り、最終的に、2007年12月にICP(国際写真センター)に届けられた。35mmで4500カットから、スキャンして、スーツケースと共に公表する初めての展覧会。残念ながら、キャパの代表作「崩れ落ちる兵士」(1936)のネガフィルムは、スーツケースに含まれていなかった。未だに、あのネガは行方不明。ただ、同日に撮影したネガの一部は、ICPに保管されている。





■ロバート・フォイト(Robert Voit)
・写真集『New Trees』(Steidl)
・展覧会「New Trees」(Amador Gallery, NYC)
・関連サイト: http://www.steidlville.com/books/983-New-Trees.html
・関連サイト: http://www.amadorgallery.com/Robert_Voit.html
・作家サイト: http://www.robertvoit.com/

ミュンヘンを拠点とするロバート・フォイトは、世界中で生えてきている新しい木に注目。それは、鉄鋼、グラスファイバー、プラスチックから作られていて、本物の木に見えるように、偽の枝葉で包まれた携帯電話用のアンテナの木である。世界中に植えられたこの新しい人工的な木をめぐって、フォイトはアメリカ、南アフリカ、ヨーロッパ中を旅している。どれも異様に背が高く、どこか唐突な印象。一見しただけでは、デジタルで作られた写真のよう。

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